Ryusuke Kawai

ジャーナリスト、ノンフィクションライター。神奈川県出身。慶応大学法学部卒、毎日新聞記者を経て独立。著書に「大和コロニー フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)などがある。日系アメリカ文学の金字塔「ノーノー・ボーイ」(同)を翻訳。「大和コロニー」の英語版「Yamato Colony」は、「the 2021 Harry T. and Harriette V. Moore Award for the best book on ethnic groups or social issues from the Florida Historical Society.」を受賞。

(2021年11月 更新)

war ja

戦争によって、二つの祖国で彷徨う魂~ノー・ノー・ボーイを探した先にみえるもの-その2

>>その1出口のないトンネルを彷徨うイチロー小説「ノー・ノー・ボーイ」は、こうした戦中、戦後の日系人の置かれた状況を背景にして、自らノー・ノー・ボーイの道を選んだ、日系二世の青年を主人公と して、彼の内面の葛藤を追っている。名前はイチロー・ヤマダ。現在、シアトルを本拠地に大活躍するメジャー・リーグ・プレイヤーのイチローと奇しくもその 名前は同じだ。が、マリナーズのイチローが生き生きとした大ヒーローであるのに対して、小説のイチローは出口のないトンネルに入ってしまったような息苦し さを抱えた存在だった。 終戦直後のシアトル。徴兵を拒否して刑務所に入っていたイチローが故郷のシアトルに帰ってきたところから話ははじまる。久しぶりに出会った同じ日系人の知 り合いは、イチローがノー・ノー・ボーイだったことを知ると、軽蔑と憎悪の眼差しで毒づいた。日系であり、かつノー・ノー・ボーイであることでしばしば罵 倒される彼は、「自分は尊厳も尊敬も目的も名誉もはぎとられてしまったんだ」と感じる。 親しい友人のケンジは戦地で片足を失い、それがもとで死の恐怖と戦いながらやがて死んでゆく。日系人のエミは、農場でひとりドイツに駐留した夫の帰りを待 つが、夫は実の兄が反米的になり日本へ行ってしまったことを恥じてドイツから帰ってこない。この兄は第一次大戦にアメリカ兵として従軍したことがあり、ア メリカ政府が自分…

Read more

war ja

戦争によって、二つの祖国で彷徨う魂~ノー・ノー・ボーイを探した先にみえるもの-その1

この夏、アメリカ西海岸のまちシアトルで、「In Search of No-No Boy(ノー・ノー・ボーイを探して)」という短編映画が仮上映された。作品のもとになった同名の小説は、戦時 中のアメリカで生きる日系人の苦悩を描きいまも読み継がれるアジア系アメリカ人文学の代表作。映画制作にあたった日系三世フランク・アベの話を含め、小説 に込められた時代を超えた普遍的なテーマについてシアトルを訪れ考察してみた。(敬称略)(*注:本稿は2008年に書かれたものです。) 「ヒロシマナガサキ」を制作したスティーブン・オカザキ、「TOKKO・特攻」の監督であるリサ・モリモト。日本の戦争を扱ったこの夏の話題の映画を撮っ たのはいずれも日系アメリカ人三世だった。 スティーブン・オカザキはあるインタビューに答えて、白人の顔をしていないアメリカ人だからこそ、被爆者たちが自分に体験を語ってくれたと話した。このこ とを含めて日本人である部分とアメリカ人である部分を併せ持つ中間に立つ存在として、先の戦争をある意味、客観的にとらえることができたのだろう。 しかし、太平洋戦争中はアメリカ国内(西部)の日本人、あるいは日系人は財産を没収され収容所に入れられた。さらに、日本人であることとアメリカ人である ことの狭間に置かれたがゆえに、「自分はいったい何者なのか」という自己のアイデンティティの危機を抱えること…

Read more