娘の病気と母の告白
「ラスト・チェリー・ブロッサム」という小説がある。戦時下の広島を舞台に、多感な少女ゆりこと優しい父、ゆりこが距離を感じる同居の叔母が主要な登場人物となる物語だ。小説の後半では、広島の街を焼土に変えた8月6日、さらにその後の彼らの運命が描かれる。原爆に至るまでの前半は戦時中の日本人の質素だけれど丁寧な暮らしぶりが細かい筆致で描かれている。私の頭の中では、ゆりこの家族のそれぞれの生き生きとした人物像と彼らの感情の機微、日々のやりとりが映像として展開した。それはまるで私が好きな小津安二郎の映画を見ているようだった。しかし、そこで、あの残酷な原爆の日が訪れる。それまでの家族で共に過ごした、ささやかな幸せで穏やかな日常が一瞬で壊され、彼らは深い悲しみと肉体的な苦しみを背負わされることになるのだ。
この小説を書いたのが、キャサリン・バーキンショーという名前のアメリカ人女性と聞いて驚いた。どうやって戦時中の広島の様子をここまで鮮やかに再現できたのだろうか?彼女の母親、広島出身のとしこさんが主人公ゆりこのモデルということが、その答えだ。
私は、東海岸在住のキャサリンさんにオンラインで取材させてもらうという機会を得て、小説完成までの経緯とアメリカ人を父に日本人を母に持つ、日系2世としての彼女のアイデンティーについて聞いた。彼女の両親は1959年に日本で出会い、結婚し、…